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社会政策について


素朴な11の質問(ダイジェスト版)

スウェーデンでは、地方政治でも保守派が勢力を握るところが多い。ヴェクショーは革新市政か?まったくそうではない。現に、1980年に国民投票で可決された「原発全廃」の旗印が1977年の3党合意で事実上、先送りされた。主な原因は、産業界の反対と雇用問題だと伝えられている。当然、ヴェクショー市議会内部でも、保守派もいる。ボー・フランク副市長も保守派の一人だった。ではなぜ、その地方都市で「脱化石燃料宣言」が可能だったのか。ベングドソン市長の講演後、若手のロジャー・ヒルディングソン・ヴェクショー市ローカルアジェンダ21対策室コーディネーターと野澤日出夫・小岩井農牧鰹務、福井富士子・21世紀サポーターズネットワーク事務局の面々を交えて、「どうやってみんなの合意を取り付けたの?」など、素朴な疑問をぶつけてみた。司会は由井正敏・岩手県立大総合政策学部教授。

素朴な疑問1(福井):太陽光や風力など新しいエネルギーがあるなかで、どうして“木”なの?木でも二酸化炭素が出ると思うのだけど?

⇒そこにたくさんあるから!そして「伐ったら植える」のが前提。
ロジャー:木だけが代替エネルギーのすべてでじゃない。ソーラーパネルなど太陽光を活用してるんだ。ソーラーパネルで言えば、EUでも初プロジェクトがうちのいくつか。そしてヴェクショー市は非常に森林が豊富で林業も盛んなので、「木」を利用するのは、自然に沸いてきたんだ。でもね、エネルギーを得るために新たに木を伐採することは、しない。木を伐採するのはパルプなど製紙業、家具業界、材木業界などで、そこで要らなくなった副産物が出ます。これを捨てるよりは利用しようという考え方なんです。二酸化炭素の排出については、森林全体が管理されているかによるんです。でも二酸化炭素削減に役立つという考え方は、基本的に「木を伐採したら新しい木を植林し、森を新しく置き換える」ということが前提なのです。

素朴な疑問2(野澤):化石燃料を削減する中で、NGOとか市民、企業との合意を取り付けたといいますが、企業では化石燃料の削減はコストへ影響するので、反発があったのではありませんか?

⇒バイオマスエネルギー投資は企業、消費者にメリット。円卓会議も重要だった。
ベングドソン市長:1996年以来、それ以前に比べ、コストが高く付いたとことはありません。バイオマスエネルギーに対する投資は、企業、消費者双方にとって利益をもたらしています。むしろ、消費者や企業から、例えば、電気を使っていた暖房から、バイオマス利用の地域熱供給による暖房に替えたい、という需要が高まっています。これは、コスト面でそれほど企業に負担にならなかったからかも知れません。
注)円卓会議以外に、情報交換の場も提供している。レナート・ガードマーク国際室長によると「環境はコストではなく、利益を生む場になっている」。
200企業から、環境問題に責任ある担当者を集め、互いの環境対策や解決方法などを話し合ってもらった。専門家がきてスピーチをすることもあったし、提案もなされた。重要なのは「コーヒーブレーク」だったそうだ。それまではほとんど質問は出なかったものの、少し長い時間をとったら、「うちでいらないものがある」「あ、それは原料として安く引き取りたい」というような、互いの利益にむすびつく情報交換の場となった。いろいろな問題について互いに話すきっかけになったという。

素朴な疑問3(由井):トップが動いても、議会や市民の基本的な合意がないといけない。じゃあ、どうやって合意を得たのですか?

⇒政党が違っても、基本的な合意が前提。
ベングドソン市長:保守派にもさまざまあって、グリーンや環境に非常に力を入れているところもあり、いろんな政党がこの問題に関してはなぜか合意に至ったんです。深い本当のところはわかりませんが、お互いにいろいろ争っていては長期的なプランに関しては決して成功はできない、と判断したのでは?もう一つ付け加えさせていただきますと、どこも同じだと思いますが、右派や左派とかいう政党同士の争いはあるけれど、こと環境問題に関しては共通の認識を持ち、合意されている面があります。それがないと、市民に対しても企業に対しても、環境問題についてさまざまに説いていくことは難しい状況になると思います。

素朴な疑問4(福井):なぜ市民の環境に対する意識が高いのですか?なにかショックなことがあったのですか?

⇒伝統的に環境問題に意識が高い政党が多い。石油危機後、安価に入手できたのでバイオマスエネルギーが広まった。
ベングドソン市長:スウェーデンの政党は、伝統的に環境問題に大変興味を持っているところが多い。というのは、まさに森と湖に囲まれた国であるからでしょうか。経済状況が非常に停滞した1990〜98年は、環境問題やバイオマスに対する興味も少し熱が冷めたように思います。環境問題と経済問題の二つの間にはつながりはあるけれど、雇用の問題にもかかわってくる面があります。
ロジャー:付けたしですが、スウェーデンでバイオエネルギーがこれだけ盛んになったのは置かれた環境面だけでなく、石油危機のときに国内エネルギーの調達源が課題となった。で、バイオマスエネルギーは他のエネルギーに比べて安価だったし、設備も安く導入できたので、広まったのです。

素朴な疑問5(野澤):日本とヨーロッパと大きく違うのは、市民意識のように思う。子どもたちへの教育面で、何かされているのでは?

⇒子どものころから、環境教育はすすめられています。
ベングドソン市長:もちろん。すべての段階で環境面の教育がなされています。一番幼いのは6〜7歳、小学生から環境問題を学んでいますし、親も熱心に取り組んでいます。
ロジャー:わたくしの記憶では子どもころ、1980年代前半から、環境問題の教育が始まったと思います。実際、80〜90年代通じて推進され、現在は大学においても同様の教育が行われています。もちろん、幼いうちから基本的なことを教えていくということは重要なことですね。それと、環境教育は学校以外の、例えば、市民運動とか、自然、環境を積極的に守っていこうという団体(ムラーと呼ぶ)の大人たちが子どもたちを森や海へ連れて行き、自然の中に身を置いて、抱かれる安心感を肌で受け止めてもらうプログラムを組んでいます。学校外の教育も大事です。

素朴な疑問6(福井):交通の二酸化炭素排出量を減らすために、自転車道の整備や、カーシェアリング(乗合)を勧めているらしいのですが…。

⇒短期的には、燃料の柔軟な利用や、公共交通機関の利用を呼びかけることが必要。
ベングドソン市長:短期的、長期的な取り組みなのです。長期的には、世界をまたにかける問題なので新しい仕組みの車の開発です。短期的には自転車道を造り、自家用車の利用を抑制し、バイオガスを使った市バスを走らせ、公共機関を利用してもらうとか、廃棄物利用のエネルギーを使って車を走らせる、というステップを踏むことが必要と思います。例えば、日本では市街地を走るのには質の良い燃料を使って、田舎の方を走るときにはちょっと質の劣る燃料を使って走るというフレキシブルな燃料の使い方をすることも考えてもいいのではないでしょうか。いずれにしても長期的、短期的な視点に立ってステップを踏むことが必要です。

まとめ(由井)

 ヴェクショー市では、バイオマスエネルギーを使うことで林業に携わる方に莫大な利益が還元されている。バイオマスエネルギー会社にも。雇用の機会も増えるし、日本でしたら森林に手入れすることにつながります。森林も活性化し、公益的機能も高まるわけです。 
岩手は森林資源の豊な県です。日本は6%、岩手では8%の二酸化炭素削減目標を達成するためには、豊な森林資源を土台にした木質バイオマスなど、自然エネルギーの活用を図っていく必要があると考えます。行政、民間企業、NGOの相互のパートナーシップが必要だと考えます。先ほど市長さんが、スウェーデンのことわざで「目標を決めれば高い山にでも登れる」言っていました。これは日本人にもぴったりな言葉ですね。
高度経済成長のときに目標を決めれば、日本はすぐ乗り越えられた。まさしく木質バイオマスを中心とする自然エネルギーの比率を高め、二酸化炭素を削減するということが今、われわれ自身に問われているのではないかと思います。本日はヴェクショー市の方々に大変参考になるアドバイスをいただきました。




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