ホームへ戻る

2000年3月のスゥエーデン・オーストリアミッションのまとめ


 当会の出発点となった2000年3月のスゥエーデン・オーストリアミッションについて、簡単に振り返ってみたい。メンバーは、遠藤保仁・葛巻林業椛纒\取締役、工藤一博・工藤建設椛纒\取締役、金沢滋・葛珥V林業専務取締役の3人。決められたスケジュールをこなしたのではなく、実際には、「現地でアポを取る」という形だった。木質バイオマス利用研究会事務局の小島健一郎氏には、多大なるお世話をいただき、ストックホルムから、ヴェクショー市へ。そこを拠点としカルマール、ロッテネなどを視察した。
スゥエーデンは、1980年の国民投票で原子力発電所を廃止することを決定したが、その後政治的な思惑、雇用問題などで必ずしも展開は進んでいない。しかし、1999年秋には、稼動中の商業用原子力発電所を廃止し、世界に衝撃を与えた。

1.スゥエーデン・バイオマス協会 ヤンエリック・ダハストローム氏より。

会員12000人、会長はケント・ニストローム。生産者、消費者、燃焼機関の幅広い情報収集。1973年、82年のオイルショックで迷惑ものの、のこ屑によるペレット研究。1987年以降の原油価格下落で生産減少。しかし、「石油のように価格に左右されるのでない、自給的エネルギーを」とふんばった。彼らの運動が石油メジャーをも動かした。たとえば、エタノールの「バイオマスガススタンド」。試験的に設置しているらしいが、バスやタクシーなどではエタノールガスはごく一般的。

2.発電と地域熱供給
・ハッセルビー・バルケット(当時はビルカ社)
もともとは、ストックホルム市のストックホルム・エネルギー社だったが、電力自由化にともない、フィンランド企業の資本参加によりビルカ社になった、コジェネレーション施設。[1] 戦前からある微粉炭ボイラーを使い、ペレットを細かく粉砕して微粉炭と同じ大きさにしてから炉に吹き込んでいた。
・サンビックU(VEAB)=写真参照
ヴェクショー市が株式を所有し、市議会議員が理事を務める営利企業。コジェネレーション施設。21万kWの熱供給と、3万kWの発電容量。160`のパイプラインで25000世帯へエネルギー供給をする。1997年に最新鋭のコジェネレーション施設の増設を終え、それまで木質バイオマス利用80%が95%になった。

3.ペレット

・ソービ社
「木質系ペレット状燃料」が正式名称。スゥエーデンでは、製材方法の違いにより、大量ののこ屑が発生する。製材所周辺では、のこ屑は風に舞う迷惑廃棄物だった。適切な燃焼機関で燃やせば、一酸化炭素などのガスはでない。20年間の歴史があり、電気で暖房している約80万戸が容易く転換可能。ソービ社では、常時5万立方メートルの原材料を確保している。24時間態勢で3交代。1週間で1000トンの生産。1トンのペレットをつくるのに、6.5立方メートルののこ屑と、熱源として1.3立方メートルの樹皮がいる。1999年の生産は42700トン。1家庭当たり1650SEK。

4.Pマーキングシステム(燃焼機器の試験・認証制度)
国立試験調査研究所:レナート・グスタベッソン教授。燃焼機の品質試験を実施。5年前の1995年にスタート。1997年に見なおしをした。観点は@ガス放出、A熱効率、B安全性、C操作安定性、について、見なおしした。メーカーや消費者団体が持ち込む。日本からも数社あった。バーナーだけでみれば、スゥエーデンが一番進んでいる。

5.ソドラ(南部森林組合、森林所有者協会)
ヴェクショー市のサンビックUに原料を半分供給するソドラグループ。国内の民有林を7地域に分けた森林所有者協会のひとつ。零細中心の森林所有者から委託を受け、施業計画から伐採、加工まで行う。33000人から委託を受ける。ソドラティンバー、ソドラパルプ、ソドラエネルギーがあり、ソドラエネルギーがVEAB社の施設に長期契約で林地残材を提供していた。

6.一般家庭

カルマールのスキャンド・ペレット社を訪れた。経営者は2人。ほか事務員2人の小さな会社。石油利用ボイラーを、燃焼部分のみ改良してペレットに転換できる改良型ボイラーを開発した技術会社と提携、販売する。技術会社が特許を持つ。ソービ社からペレットを購入し、販売もする。
宣伝は、専門誌や新聞広告、インターネット・サイト。サイトでの意見・質問は、燃料のペレットをどこから購入すればいいのか、で、燃焼機の性能はその後。しかし、燃焼機よりもペレットの品質が問題であることのほうが大きい。
スゥエーデンと周辺に130箇所のエージェントを持つ。薪ストーブで使えるブリケットも、年間80t売れる。
自社が入るビルの暖房ボイラーは、ディーゼルエンジン用のグロープラグを利用したペレットボイラーに改造し、1日500`の消費で年間30%のコストダウンに成功した。一冬で15万円の削減になった。

一般家庭について(ペレットストーブ)

典型的なスウェーデンハウス。現在は夫婦暮らし。退職者で、従来は電気暖房だったのをペレットに変更。壁で仕切るような構造にはなっていないため、この1台で全体を暖める。空気流動を大切にしており、暖気が下に落ちるような構造。玄関からの冷気が遮断されるような設計になっている。経費は電気の半分くらい(設置コストを除き)。一年間で600`のフレコンバック×3を使った。外部の煙突からは、煙は出ていない。何がペレットに選ばせたのか。主人に聞くと、@脱化石燃料化への寄与、 A経済的、B見た目、C空気がきれいであると言っていた。郊外のセントラルヒーティングを使用している民家にもおじゃました。灯油ボイラーのバーナー部分のみを付け替えた。自分でペレットの自動供給装置を製作していた。経費に関しては、ストーブと同様、コストダウンにつながっていた。


《おわりに》
EUの政策は戦略的な思考で、雇用対策も盛り込まれている。バイオマス利用を進めることにより、新たな雇用機会が膨らむ。同時に、投資効果も期待されている。
これからの課題として以下の点を挙げてみた。
@ 発電と熱供給に分ける。発電は主ではない。地域熱供給
A 山元では、林地残材の安価な搬出(売り物になる間伐材は別用途)
B 製材、加工部門では樹皮や廃棄物の集約化
C 燃焼機関の開発、改良(当面は、熱供給)
D 行政的には、モデル地区の設定や、効果的な支援策(転換・改良への助成など)
E 木質系バイオマスのPR→儲からないけど必要である。なにがメリットであるか。

いずれも、業界単位、あるいは行政の縦割りでは通用しない。競争も必要だが、悩みを分かち合う態勢づくりが必要。そして、地域からの発信。林野庁の方々が地方の声を聞いている。木質があるのは地方である。ヤン・エリックの言葉が印象に残る。「地方にロビイスト活動をした。それが中央に届いた」。スウェーデンと日本、ヨーロッパと日本は文化や行政の役割が違うといえばそれまで。地方から「ローカルアジェンダ21」のようなスタンダードを発信していくことが必要ではないか。

(2000年7月5日、ミッション報告会での発表要旨)


--------------------------------------------------------------------------------

[1]発電時に利用する高温の湯をパイプラインで市街地に回し、熱を供給するシステム。日本では通常の火力発電所などで、施設内で冷却水を使い、水温を下げている。




ホームへ戻る