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バイオマスシンポジウム2010



岩手・木質バイオマス研究会の「バイオマスシンポジウム2010」は、11月26日から28日までの3日間、盛岡駅西口のアイーナ(岩手県民情報交流センター)を主会場に開催された。
シンポジウムでは、各地からの報告、講演、シンポジウムを通じて、「これからの100年を考える」をテーマに、100年後も同じようにバイオマスを利用するために、100年後を見据え、どのような社会をデザインし、どのように行動し、木質バイオマスはどのように貢献すべきかについて話し合った。
3日間にわたるシンポジウムの概要を以下のように報告する。
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《地域から考える木質バイオマス》日時:2010.11.26(13:00〜17:10)
場所:アイーナ7Fアイーナホール
参加者:約150人

1.開会挨拶 (伊藤幸男/岩手・木質バイオマス研究会) 敬称略、以下同
岩手・木質バイオマス研究会を2000年に設立してから10年経過し、節目の年を迎えた。木質バイオマスへの期待は非常に高く、全国的にも様々な展開が行われている。このシステム、森林資源を健全な形でどう次世代引き渡せるかが課題となっている。今日は、全国で活動されている方に考え方、取り組み方、課題について議論していきたい。

2.岩手の取り組み報告
(1)「全体報告」(伊藤幸男/岩手・木質バイオマス研究会)
2000年に設立以来、岩手県への政策提言、いわて型ペレットストーブの開発・販売、普及・啓蒙活動を行ってきた。この結果、ストーブ・ボイラーの普及台数が順調に伸び、ペレット・チップの需要が確実に増加している。しかし、原料が製材工場の端材等であり、今後は山林からの供給が必要。森林・林業・山村と木質バイオマスを再生産していく仕組みをどう構築していくかが次の課題である。

(2)「木質バイオマスと農業分野の循環モデルの検討−馬淵川流域での取り組み−」
(伊藤幸男/岩手・木質バイオマス研究会)
県内の主たる産業である農業と木質バイオマス利用を関連させた、地域循環型の木質バイオマス利用のモデルを検討することを目的とし、2009年以降、次の3点に取り組んでいる。1)温室、ブロイラー等での利用が期待される農業用温風ペレットボイラー(高速道路の維持管理により発生する間伐材にも対応可能なもの)を製作・設置し燃焼実験を行った。今年度、水耕栽培の温室において本格稼働する予定。2)高速道路から発生する間伐材でペレットを試作しており、実際に燃焼試験を行う予定。3) 当該温室から栽培された農産物を環境負荷の低い農産物としてPRし、市場での差別化を図ることで、ビジネスモデルを提案するため、大規模小売店での販売を予定している。そのためのロゴなどをデザインした。

(3)「木質バイオマスの安定供給に関する実証実験」(高橋幸男/釜石森林組合)
当地方では林業生産活動の停滞により、本来あるべき森林資源の循環活用による森林・林業の持続が危惧されている。一方、森林に対する住民の期待は多様化・高度化している。また、地元製造業では化石燃料を代替し、地球環境に優しい木質バイオマスエネルギーが注目されているが、資源の安定供給と納入コストに課題がある。このため釜石市では、地域完結型の資源循環システム(釜石市緑のシステム創造事業)の実現に取り組んでいる。その一環として、コスト削減・効率化、バイオマスエネルギーの高度利用、林業の安定と振興に向けて、高性能林業機械の導入等による作業システム確立のために実証実験を行った。実証実験の結果、間伐の生産性が向上し、森林組合での新規雇用が4名、林地残材の運搬のためダンプトラックが相当数稼働し、地域経済に波及効果をもたらした。また、釜石製鐵所の発電施設で始めた石炭との混焼用チップの納入量は計画の100%を超えた。

(4)「賦存量調査について」(沼田剛/潟lクスコ・エンジニアリング東北)
県内の木質バイオマスの安定供給及び新たな消費拡大、燃料機器の導入促進及び品質向上に関する可能性の実証を行うために必要な、木質バイオマス賦存量の資料収集を行った。県内の高速道路を機軸とし、一戸、盛岡、北上、一関インターの半径30km圏内の森林面積を調査した結果、地域内利用では十分に供給できるだけの賦存量とチップ工場があることが判明した。すなわち、チップ・ペレットを使用する機器や設備が増加しても、当面供給には問題がなく、木質バイオマス材がパルプ材と同等の価格になれば流通はするであろうと推測された。また、県内の高速道路樹林帯の賦存量は約1万m3、年間平均発生量約200m3であり、これらの材が発生した場所から近距離のチップ・ペレット工場等に搬出し、有効資源として利用していく必要がある。

(5)「既存のボイラー利用状況調査」(中村正/潟lクサス)
県内における木質バイオマスボイラーの稼働実態(主としてペレット・チップ等の購入実態)を把握することを狙いとして行った。調査は、県内で稼働されているとされたペレットボイラー33ヶ所47台、チップボイラー9ヶ所13台、その他(木屑等)2ヶ所2台を対象に、設置者(管理者)から直接面談方式による聞き取りによる方法で行った。この結果、2002年度にはペレットボイラー10台、チップボイラー3台の稼働が把握されていたものが、年々導入台数を増やし、順調に普及が進んでいることを確認できた。燃料消費量はペレットで年間2,100トン、チップで1,502トン把握され、順調な需要拡大傾向を示していることは推測できた。また、ボイラー用ペレット・チップが消費者(購入者)に届くまでの流れ、価格(価格形成の要素)などの実態が把握され、消費者側の要望等も取りまとめることができた。

3.各地からの活動報告
(1)「北海道における木質バイオマスの利活用の現状」
(大友詔雄/劾ERC(自然エネルギー研究センター))
北海道では1998年から木質バイオマスに取り組み、その後10年間、水産林務部を中心に官民協調で進めた。北海道型ペレットストーブの開発、農業や水産業分野でのボイラー実証試験の実施等が行われてきた。平成19年に「北海道木質ペレット推進協議会」が設立され、現在、ペレット生産者・燃焼機器メーカー・流通業者合計40者が参加するまでになっている。道内のペレット生産工場は小規模の地場産業であり、コスト競争に入り込むことなく、存続を図る方法は「地産地消型社会」を構築することしかあり得ないとの認識がある。こうした中、足寄町で取り組まれた、地産地消型生産・流通の仕組みが先駆的なものである。また新たに、林地未利用材を主原料とする木質繊維断熱材製造が始まっている。林地残材を山から下ろすには費用がかかり、チップ用途では採算が取れないが、この断熱材が利用できる道が開ければ、国内の森林資源のより有効な利用に貢献できる。

(2)「森からつくるカーボンニュートラルハウス−これからのエコ住宅と木質ペレット燃料−」(三浦秀一/東北芸術工科大学 建築・環境デザイン学科)
木質エネルギーは木造住宅を建築するための製材の過程で発生する副産物の有効利用にもなる。こうした木質エネルギーの環境を活かし、環境省のモデル事業により建築した木造住宅(山形県エコハウス)は、最新のバイオマスボイラーと太陽熱温水器を組み合わせることで、二酸化炭素を排出しないカーボンニュートラル住宅となっている。日本の住宅でのバイオマス利用はペレットストーブが中心になってきた。今後、住宅の省エネ化が進んでいく中で暖房需要は削減されていく。住宅のカーボンニュートラル化を実現するためには、バイオマスを全館暖房へ対応せせるとともに、給湯への利用にも展開させていく必要がある。給湯でのカーボンニュートラル化を実現させるためにはバイオマスの導入が最も効果的である。

(3)「NPO法人バイオマス産業社会ネットワークからの活動報告」
(泊みゆき/NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク)
世界的にも日本的にも持続可能なバイオマス利用ができているかは疑問。持続可能なバイオマスのために、経済的持続性、環境的持続性、社会的持続性に配慮する必要がある。日本で利用可能なバイオマス資源の半数が森林由来であり、林業再生が不可欠。林業が抱える問題は、内部からは見えてこない。広い視点で、国民的議論を促す必要がある。このため、より幅広いネットワークでの活動展開が必要。また、食べていけるバイオマス産業の育成が必要。

(4)「木質バイオマスシステム構築は徹底した地域システムで!」
(中嶋健造/NPO法人土佐の森・救援隊)
約3000世帯全戸のアンケート調査を実施した結果、地域内には700人を超える山林所有者がおり、うち半数以上の方から「自ら林業をおこないたい、材を搬出したい」という切実な願いが伺えた。この潜在的需要に対し、林地残材の収集運搬者を限定せず、地域住民全ての方に開かれた、地域で支える「地域システム」を形成した。また、残材の買取に加え、地域通貨券による環境支払制度を導入した(対価=現金+地域通貨券)。このシステムにより、特定多数の参画者により安定供給が実現できた。また、林業を始める方、週末だけの兼業化でも月5〜20万円の副収入を得る方が急増し、地域のなくてはならない"副業"に成長した。このシステムは「土佐の森方式」として、全国に広がりを見せている。


(5)「山口県における森林バイオマスエネルギー地産地消の取組みについて−大規模施設での挑戦−」(山田隆信/山口県森林企画課森林バイオマス推進班)
山口県では平成13年度に、間伐材・伐採残渣等の未利用森林バイオマスの供給からエネルギー利用に至る一貫した利用システムを構築するため、3種類のエネルギー利用システムと、各利用先に未利用森林システムを全県的規模で収集し供給する「低コスト収集運搬システム」の技術開発、実証実験の取り組みを展開した。平成18年度に機材開発や施設整備を行い、平成19〜21年度まで実証実験を行った。その結果、3年間で皆伐地152ha、間伐地115haから12,734トンの林地残材を供給し、エネルギー利用した。平成22年度以降は、森林バイオマスによる各地域のエネルギーシステムとしての定着化を目指している。供給側では森林組合、素材生産業者と林地残材をバイオマスとして供給する協定を結び、利用側ではチップ売買契約を締結した。一方、民間企業においては、産廃系木質チップが流通しており、その価格差を埋めることは困難であるが、林野庁等の事業を活用しバイオマス利用に取り組む企業が出てきた。

(6)「木質バイオマスの導入事例からアイデアを学ぶ」
(大場龍夫/叶Xのエネルギー研究所)
バイオマスを取り巻く環境は、この10年で大きく進んできた。バイオマスの普及には需要が大事で、需要があると民間企業がペレット等の供給を始める。バイオマスは燃料だけでなく、付加価値の高い商品として考える必要がある。最終的には自給自足的にやりながら多段階のものを生み出す、森林資源のカスケード利用をしていきたい。また、地域の中で使えるものを生み出さないと地域にお金が落ちず、地域振興につながっていかない。

4.議論(パネルディスカッション)
  コーディネーター:金沢滋(岩手・木質バイオマス研究会顧問)
1)原料生産は事業として成り立つのか。
・現状では事業の採算性は出ていない。高知県ではペレットを利用する施設は多くつくられたが、ペレットが高いために県外や海外から輸入された製品が船で運ばれるというジレンマが生じている。
・素材生産で高性能機械を購入して生産すると稼働時間が多くないと機械代が高くなり、さらに専業でするには供給量が多くなければ成り立たない。
・原木からのペレット生産では採算が合わない。ペレット工場は100カ所近くあるが、基本は製材工場の副業の場合が多く、原材料費はゼロである。
・政府が発電に供するバイオマスの全量買取制度を提示しているが、こうしてシンポジウムに出て初めて知ることもある。業界として情報を供給していかなければならない。
2)行政からの補助金について。
・ペレットに限定すると、市町村が導入する時に道が負担する。(北海道)
・独自のものはない。(山形県)
・補助金なら地域材を使う条件がある。5年後に事業をチェックする仕組みだ。その時はよくても、数年間できちんと自立できるかが問題。
・補助金の性質上、補助率が高いほど、条件を履行する責任は大きくなり、実施主体の協同組合の理事らが大きな負担を背負う場合も多い。
・行政主導で行われた事業でずさんなものもある。この10年間でみても失敗の連続では。農林水産省の事業と経済産業省の事業でも違うが、見込みのあるものとないものを仕分ける必要がある。
3)どのような人がバイオマスを理解し、担い手にならなければならないか。
・いわゆる起業家のように、新たな価値を生み出す人材が欲しい。
・地方では選択肢がない場合もあり、森林組合には積極的に動いて欲しい。
・日本ではバイオマスを産業システムとしてみるが、ヨーロッパではもともと地域づくりと見ている。いかに周りを積極的に巻き込み、地域づくりシステムを進めるかがカギ。そこには人材も必要。
・持続可能性のバイオマスは金がかかるが、そのシステムを作って行かなければならない。現状を知らせる必要がある。
4)バイオマス利用を通じて、どうやって森林に利益を還元するか。
・化石燃料と異なり、バイオマス利用は輸送コストを考えれば地域づくりそのものだ。
・地域づくりは信用が大切。地元の人、資源を再生産できる地域社会をつくることが大事。
・地域産業が成り立たなければ、地域づくりはできない。バイオマスで雇用を生み出し、根づいていくべき。
・バイオマスは林業再生の切り札。最近の里山ブームで見直されているように、都会近郊の広葉樹林で薪を取ることは里山の再生にもつながる。
・資源の循環からいえば、山林の再造林が必要。バイオマス利用することで山を若返らせるようになればいい。
・山に返すには全体のシステムで行う必要がある。高知の場合のように、予想もつかない効果がでることもある。成功例を広めていく必要がある。

【コーディネーターより】金沢 滋(岩手・木質バイオマス研究会 顧問)
さて、遠い世界の果てから運ばれる化石燃料を使うのではなく、木質バイオマス利用は森林づくりを含めて地域をつくっていくことが大切、という認識に至りました。会場のみなさんに示していただいた見解からも、同様に意見が一致したということでありがとうございました。これからも、ご理解していただきたいと思います。
(11月26日分以上)

≪これからの100年を考える!≫ 日時:2010.11.27(13:00〜17:10)
場所:アイーナ7Fアイーナホール
参加者:約200人
シンポジウム2日目の27日は、テーマ「これからの100年を考える!」と題して、基調講演と特別講演、パネルディスカッションを開いた。概要は以下の通り。

◇これからの100年を考える!
1.開会挨拶(伊藤幸男/岩手・木質バイオマス研究会会長)
 昨日は全国各地で、一所懸命取り組んできた方々に参加いただき、ここ10年で地域づくりを含め、木質バイオマスが確かな一歩を歩んできたことを確認した。今日は将来に向けてをテーマにシンポジウムを行いたい。
われわれがバイオマスに取り組んだ当初は、需要を作り、そこに木質バイオマスを供給して行けばよいと考えた。10年経ってこれが持続的なものかどうか、われわれは次の世代のためのバイオマス資源を作っているかどうか、という点に立ち返ると、必ずしも出来ていないのではないかと考えた。
 本日のシンポジウムでは、次の世代への資源づくりも含めた50年、100年の再生産の仕組みを、今から展望しようという所に基本的な問題意識を置いている。木質バイオマスだけでなく、利用を通じた価値の転換、ライフスタイルの転換が伴わないと実現できないのではないかと思う。広い視点から、われわれはどういう社会を作れば良いのか、自然エネルギーがどのような貢献をするのか、あるいは、われわれが次の世代のために責任ある行動として何をなすべきか等々について、講師、パネラーの方々に示して頂きたい。

2.達増拓也岩手県知事 祝辞(上野善晴副知事代理)
日本の森林・林業は大きく変わろうとしており、本シンポジウムにおける議論が今後の日本の木質バイオマス利用の進むべき方向を示すことを期待する。

3.ビデオメッセージ (上岡裕/NPO法人エコロジーオンライン理事長)
地球温暖化をもたらす化石燃料ではなく、再生可能な木材をどう利用して、未来の子供たちにより良い社会を残すため、一緒になって取り組もう。

4.基調講演 (熊崎実氏/一般社会法人日本木質ペレット協会会長、筑波大学名誉教授)
演題「地球環境から見た木質バイオマス活用の今後」
1)世界の中の日本
 日本の林業は停滞し木材生産は減少したが、そのぶん日本の山の蓄積は大変な量だ。半面、山は過密状態で、どうやって健康な山にするかが大きな課題だ。
 山に手を入れれば出るのは低質材中心であり、低質材の一番の使い道はエネルギーだ。今後、大量に出てくるはずの木質材料をどうエネルギーに変えるかも大きな課題だ。

 さて、地球温暖化を招く温室効果ガスで考えれば、森林の取り扱いと木材の利用の仕方が大気中の炭素濃度を変える。そこで、温暖化防止のための林業戦略として・・・
@林木蓄積量の大きい森林をつくってCO2を貯め込む
A切り捨て間伐などを少なくしてメタンの発生を防ぐ
B耐用年数の長い木造建築物をつくり、炭素を貯留する
C製造過程でCO2排出量の多い鉄、アルミに代えて木材をたくさん使う
D木材の生産・加工・輸送エネルギーを少なくして、化石燃料を節約する
E木材のカスケード利用を徹底し最終段階の、残廃材も有用なエネルギーに変換して、化石燃料の消費を削減する・・・などいくつかの戦略が考えられる。以上のように林業経営や木材生産はすべて大気中のCO2濃度削減と結びつく。

 現在、バイオマスは世界のエネルギー需要の10%程度を賄う。2030年には16%に伸びると予測され、世界的にみればバイオマスエネルギーの割合は非常に大きい。利用にはいろいろ方法はあるが、効率やCO2削減効果等から考えて木質バイオマスのエネルギー変換の主力は、間違いなく発電ではなく熱供給だ。

2)切り捨て間伐注)はCO2削減効果をなくす
(注)捨て間伐ともいう。せっかく間伐しても木若かったり、細かったりして利用できない場合にそのまま捨てていくやり方。
 日本では切り捨て間伐が多いが、間伐した木の処理の方法によって後のCO2の発生量は大きく変わってくる。
 切り捨て間伐後、約10年で分解されメタンが出てくる。メタンはCO2に比べ20から25倍ぐらい温暖化効果が強いガスだ。切り捨て間伐は「温暖化防止のための林業戦略」の@〜Eの利益、つまり間伐して利用することにより発生する利益を全部失う。
 森林を扱うこと、木材を利用すること、一つ一つがCO2排出につながる。全体としてどうつながっているのかを考えないと、CO2を減らすつもりで実は増やしていることになりかねない。

 さて、日本の森林蓄積は増加しており、どう使うかが林業再生のポイントだ。その森林蓄積すべてがよく手入れされた山ならば、素晴らしい木材ポテンシャルだが、実は多くは過密な森林なのが実態で、これをどうエネルギー利用するかが課題となる。 
 日本でも木質エネルギー利用が進まなかったわけではなく、ここ10年くらいボイラー等が増え、建築廃棄物系のチップ価格は上昇している。今、一番注目されるバイオマスは、山の未利用材(運ばれなかった残材)だ。今まで運び出すのに経費がかかるという問題で使われなかったが、徐々にサプライチェーン(利用循環)が見えている。

3)日本の木質バイオマス動向
 世界のペレット市場は猛烈な勢いで拡大し、1〜5万トン生産する工場が321工場、5万トン以上が175工場もある。一方、日本は約100工場あるが、多くは1トン以下の規模で日本全体でも10万トンに満たない。国内でもペレットが国際商品化する中で、クリアすべき課題は山積しており、深刻な問題を抱えている。

 最後に、国内排出取引とか再生可能電力の固定価格買取などが話題になっているが、今の固定価格買取案では、最も低質なバイオマスを使う発電用の材料が高い価格になりかねない。効率の悪い発電用にバイオマスが集中して流れるような仕組みは良くない。

5.特別講演 (レナート・ゴードマーク氏/スウェーデン・ヴェクショー・ヴェルナモ・バイオマス・ガスフィケーションセンター・シニアアドバイザー)
演題「化石燃料ゼロ宣言!バイオマス先進国ヴェクショー市のその後」
 私達が1980年代に地域暖房を導入した理由の一つは、バイオマスエネルギーが非常に安定し、低価格なエネルギーであること、もう一つは地域の雇用創出につながるということだった。
スウェーデンとヴェクショーでは、経済成長を続けながらCO2を削減させてきた。その理由は、大きなプロジェクトを進めながら、それと同時に、@CO2排出量に応じた駐車料金の課金A物流、配送のコーディネーションB低排出車の売上拡大C公共交通及び自動車用のインフラ整備D次世代車用燃料−というような、小さなプロジェクトも着実に実行してきたことが上げられる。
何かを始める場合は、自分達がどのような所にいて、どんな資源が周りにあって、どんなニーズがあって、なんのためにバイオマスに取り組むのか、自分達の地域に合わせて考える必要がある。そして最後に、様々な部門を超えた交流、アイデアを出し合う場をつくることが一番大事だ。

6.パネルディスカッション
 テーマ「100年を展望したメッセージ…森と命の循環を…」

 ▽飯田哲也氏 (NPO法人環境エネルギー政策研究所所長)
 農業革命、産業革命、IT革命の次に、自然エネルギー革命が起きている。それは、政治的"志"と賢い政策を持つ国で起きている。石油と自動車の二十世紀は立ち枯れ、自然エネルギー市場がかつての自動車産業をしのぐ勢いで急成長している。
 原発のような巨大施設ではなく、小規模分散エネルギーは倍々ゲームで拡大している。新しい「現実」に対応した新しい「ルール」を作り、それを経済にするため、地域でのマネーの循環、グリーン知識の生産共有・普及・進化が必要だ。

 ▽泊みゆき氏 (NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長)
 循環可能なバイオマスとそうでないバイオマスがある。循環型社会とは、そこに暮らす人々が幸せに生き延びられて、公平性のある社会である。木質バイオマスでいえば、森林が持続しなければならず、多様な機能を維持していること、再生可能で利用できることが重要である。

 ▽増田寛也氏 (野村総合研究所顧問)
 スタート地点はドイツと同様だったが、いまでは置いて行かれ、追う立場になった。今日、ヴェクショーの話を聞き、日本との違いを検証してみたい。日本では政権が交代しエネルギー、環境政策も変わり、政策では環境面を産業育成政策に、という。だが、バイオマスの動きを地方からどういう風に政権に映してゆけばよいかは、はっきりしていない。自然エネルギーを100%にすることは大事だが、一つ一つのツールを産業化する必要があり、環境面と林業、産業面をどう結び付けるかが課題となろう。
 地域を見つめ、価値を見出し、世界に飛び出すのがこれから大事であり、環境部門でもシンクローカル&アクトグローバルが重要だ。岩手・木質バイオマス研究会が十年間活動してきたことは、岩手で誇るべきことであり、今後、はっきりした目標を立ててそれを共有化し、理念をいじくり回すのではなく、活動しながら、外に発信してほしい。

【モデレーター】伊藤幸男氏 
 それぞれの話をきいていて、それぞれにできるだけ良い面を見つけ、ポジティブに生きたいと考える。環境や循環を大事だと思っている人が増えたことやバイオマスに関わりながら林業・山村を大事に思ってくれる人が増えたことを心強く思っており、今日をまたスタートとしたい。
 (11月27日分以上)

現地視察ツアー
 28日は午前8時半から現地視察ツアーを行い、木質バイオマス施設を視察した。
8:30 盛岡駅西口バスプール発
区界高原少年自然の家(薪ボイラー、ペレットボイラー)
褐燈ス製麺所(木屑焚きボイラー)
岩手県営温水プール(チップボイラー)
岩手中央森林組合(チップ生産) 
13:30盛岡駅西口バスプール着 解散
以上



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