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紫波町フォーラム"スイス・フォレスターに生物多様で持続可能な森づくりを学ぶ" 報告書



主 催: 岩手・木質バイオマス研究会(WBI)
共 催: 紫波町、NPO法人日本ビオトープ協会
後 援: 岩手県・(社)岩手県緑化推進委員会・(社)岩手県緑化推進委員会紫波支部
(いわて環境王国展2010併催イベント)
日 時 :11月13日(土)9:30〜17:30   
参加費無料

第一部 現地研修会

開催場所:菅原和博氏所有山林(紫波町山屋字鍋沢49)
講 師: ロルフ・シュトリッカー氏 (スイス・フォレスター)
通 訳: 山脇 正俊氏 (スイス近自然学研究所代表・チューリッヒ在住)
参加者数:68名

日 程:
9:30  JR紫波中央駅前発
9:40  JAいわて中央本所 パーフルパレス発
9:30〜 主催者挨拶と講師紹介
11:30  JAいわて中央本所 パーフルパレス着

【菅原和博氏の説明】
・ 道路があってはじめて間伐材の搬出ができる。搬出できる範囲は道路から100mまで。これより奥は切り捨てにせざるを得ない。
・ 残す木を決めて、最終的には100年生の森林を育てる方針。そのことが、スギの人工林といえども、生物多様性につながると考える。
・ 今までは森林税も使って列状間伐を1回した。今後は定性間伐がよいような気がしている。

【ロルフ氏の講評】
・ スイスでは、人工林も針葉樹一辺倒ではなく、広葉樹も含めた長伐期施行へと向かっている。
・ 広葉樹は生物多様性を高めるだけでなく、実は材価も高い。
・ 路網が整備されたことで皆伐は行われなくなり、択伐による循環的な木材生産が確立した。
・ 育成途中の針葉樹だけにフォーカスした林業から、長伐期・大径材林業に移行したことで、製材工場の形態や機械も素材に合わせて変化してきた。
・ スイスでも森林整備に公的な支援(補助金)が投入されるが、日本のように森林整備に一律な補助金が執行された時代は終わり、個々のエリアで環境や生物多様性を加味した森林育成のプロジェクトを企画し、それが認められてはじめて補助金が出る仕組み。
・ スイス国民にとって森林は、木材生産だけでなく、レクリェーションのための公的な財産だとの共通認識があるため、森林整備に公的資金を投入することに意義を唱える人はいない。
・ 皆伐は禁止。40から70センチの直径のものを伐る。細い木はほとんど伐らない。どの木を残すべきかを決めて間伐していく。


第二部 講演会

開催場所:JAいわて中央 パーフルパレス(JR紫波中央駅より徒歩10分)
講 師: ロルフ・シュトリッカー氏 (スイス・フォレスター)
     山脇 正俊氏 (スイス近自然学研究所代表・チューリッヒ在住)
     長谷川明子氏 (新潟総合学院環境マネジメント学科講師) 
参加者数:約120名

日 程 :                         
13:00〜13:20  開 会 岩手・木質バイオマス研究会会長 伊藤幸男 挨拶
来賓祝辞 紫波町長 藤原孝氏
13:20〜14:00   講 演
「生物多様性条約Cop10in名古屋の論点と解説」  長谷川 明子氏 
14:10〜15:00  講演
「近自然とスイス・ドイツの森づくり」 山脇 正俊(やまわき まさとし)氏
15:00〜15:10  休憩
15:15〜16:30  講演
「スイスのグリーンフォレスターの役割・生物多様性を含む多角的な対応について」
 ロルフ・シュトリッカー(Rolf Stricker)氏
 (通訳と解説:山脇正俊氏)
16:35〜17:30   質疑応答(ロルフ氏、山脇氏、伊藤会長) 座長:長谷川明子氏     
17:30         閉 会 

【長谷川さん講演要旨】
現在13分に1種の生物が絶滅している。生態系ピラミッドはわずか5階建て程度で、1つの階が崩れると全部が崩壊する。
今回のCOP10は遺伝子組み換えの責任の所在を明確にした。また遺伝資源の利用と利益配分を定めた名古屋議定書を採択することができた。遺伝子組み換え生物が生態系に被害を与えた場合の補償ルール「名古屋・クアラルンプール補足議定書」も採択している。新しい生態系保全の国際目標2020年愛知ターゲットに合意を得ることもでき、有意義だった。
その他、国連に2011年からの10年を生物多様な10年として定めるよう声明を出したり、SATOYAMAイニシアチブへの参加を呼びかける場となった。
まず身近な動きを楽しく始めることが必要である。日本は固有生物種の宝庫である。もっと身近に目を向けたい。

【山脇さんの講演要旨】
原則として、脱石油、脱依存から抜け出し、太陽エネルギーで豊かさを求める。石油1トンを使えば分子式から二酸化炭素が3.2トン発生するのは明らかである。
ピークオイルは石油価格などから2005年だったのではないかといわれている。また天然ガスは2015年、ウランは2020年がピークだと予想される。持続可能な自然エネルギーへの転換が必要だ。
どの場合もリスク管理として、事前の周到な準備、危機の認識、迅速で適切な回避行動が必要で、また対処より予防が重要である。
今までの林業は略奪によるもので、元金に手をつけていて、これでは持続しない。今後は利息で運営する択伐・自然更新による持続林業を行うべきだ。また、陽光林を広めたい。これは樹冠を一定にせず、広葉樹が葉を落とすことで地力が持続する。方向として、伐採量を減らして利益を永続的にする、育成林を決定しその周辺の択伐をおこなう、里山の手入れで収入を得る、原木生産だけでなくマンパワーとアイデアにより付加価値をつける、など。

【ロルフさん講演要旨】
スイスでフォレスターは何をしているか。
・森の管理にアドバイスをする人。
・いろいろな人の利害関係を調整する人。
・森のことを良く知っていて、一番に異常に気づく人。
・森林と製材業を結びつける接着剤。
・所有者とハンターの調整をする人。
・森の情報を公開する人。(学校への啓蒙活動など)
・森と森の利益を持続的にする人。
経費内訳
 46% 直接伐採に関わる費用+木材生産費
 27% 人件費
  9% 広報・森林警察費用
 18% ファイアープレス:公園・歩道などの整備
フォレスターの歴史
 1876年に始まる。もともとは警察権を持つ人、だった。
 不法伐採が多い、略奪林業で洪水多発、によりフォレスターが効果ありと認識された。
なぜ近自然の森か?
 不自然な森は密生していて、下草が少なく、地力が乏しい。
 そのため風倒木が多く、キクイムシが発生しやすい。
 材の質が悪い。
  ↓
近自然の森は
その場所に合った多様な森。
垂直、水平の多様な構造をしている。
様々な樹齢と太さの森。
林縁が複雑で、生物多様で、希少種が多い。
地力が維持されている。
風に対して強い。
住民にとって「気持ちの良い森」
充分な利益をもたらす。
担当区の森について
最高では90万円/?というカエデの材を算出した。
それ以外でも10万円/?以上の高価格材をめざしている。
天然更新は野生動物との関係が重要で、シカ害があったが、オオヤマネコを自然に帰したことが復活の一因。
林縁が多いため生物多様であるが、コストがかかり、質の悪い材が出る率が高い。
近自然の森づくりで重要なのは
・作業道は充分に、だが多すぎてはいけない。また、目的に応じ様々な規模の道を入れる。架線集材も考慮する。
・住民を巻き込んだエクスカーションをおこなうことで住民の支持をもらう。
・経費をかけないで自然のプロセスを利用する。
巻枯らしの実施―5年でキツツキやコウモリが住処にする。
それぞれの樹種で密度を変える。
天然更新をする。
・森林所有者と一緒に森づくりをする。
境界確認、伐採木のマーキングなどを一緒におこなう。
経費は節減してもそのために森を傷めてはならない。
・材にならない部位の有効利用。
 チップ化→地域暖房に利用する。
伐採の判定とその後の作業
 所有者と現地の確認をおこなう→工場との折衝→利益データの算出→林業会社への注文→伐採→打った収入で林業会社に支払をする。

【質疑応答】
・フォレスターの身分について
ロルフさんの場合は上司、住民との関係がよいため 身分は安定している。
・近自然に対するフォレスターの取り組み方は?
全部で130人いるうち10%が実践している。80%が興味あり、10%が興味なしだが実践したり興味を持つ人が増えている。
・フォレスターの成り手は?
 称号を得て、その後空きがあったらなれる。
スイスのフォレスターは森林作業員のマイスターで、林学を修めた人はプランナーになる。
・伐採方法は?
60%がトラクターとウィンチにより、20%がハーベスタ・フォワーダ使用、20%はタワーヤーダも使用している。森林所有者は林業機械が入ることをあまり喜ばず、そのため高性能機械の割合が増えない。
・松くい虫被害のアカマツ林の管理について
大きい木は森の安定性を保っている場合があるので、伐採するのは注意が必要だ。
アカマツは天然更新に向いているので、大きい木を残し、皆伐し、次世代につなぐ方法もある。
個人の所有者に対応を頼っている状況があり、新しいしくみづくりが必要。
・択伐は日本では太い木を伐出するときに使う方法だが、何年生の林をどの程度の規模でおこなうか?
良い木(育成木)を見つけて、その生長を妨げる木にマーキングし、伐採する。その収入で管理をおこなう。針葉樹は150年生ほどになっており、樹齢により太さが違う。
規模は貯木場の許容量により、200〜300?であるが、長い間放置されていた林では270?/fくらい伐る場合もある。
目標に近づいたら、8年おき(この数字は経験的に最も有利な年数。)に80〜100?/f伐ることで、利益をあげ続ける。
・排出権取引についてどう思うか?
生産を増やすモチベーションにはなる。また、あらゆる国が少しずつ、多くの人が関わるメリットがある。
それらの有効性を認めながらも4人の講師が全てこのしくみに対しNO!という答えだった。
ロルフ氏曰く「お金で済ませることでしょうか?」




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