ホームへ戻る

2008年度 第8回通常総会 記念講演会 記録



月日 2008年7月5日(土) 13:30-15:20
場所 盛岡市勤労福祉会館 401・402会議室

1. 木質バイオマスエネルギーの活用と地域振興
岩手・木質バイオマス研究会運営委員 阿部健氏

2008年7月1日に発表された日銀の短観によると、日本の景気が停滞している。最近の原油高は、良い意味では化石燃料から木質エネルギーへ転換に向かうことであるが、原油マネーへの投機が膨れ上がっており、カーボンニュートラルの理念が市場マネーへ移ってしまうことが懸念される。地域循環の仕組みを具体的に作る必要がある。
10年前に木質バイオマスと出会い、産業の振興と地域の価値という2つの命題のもと取り組んだ。人材育成や産学官連携で産業を振興し、環境とエネルギーで地域の価値を作れないか模索した。スウェーデンのベクショーも視察した。2010年に化石燃料を使わないことを目標にプライドと自信を持って行動していた。情報収集、学習、議論を徹底的に行っており、非常に感心した。
林業が危機的状況にあったこと、知事が目標を鮮明に打ち出したこと、葛巻林業が実際にペレットを作っていることが要因となり、県で木質バイオマス普及へ動き始めた。皆がそれぞれの分野で力を合わせて今までやってきた。
次のステップとしては、原料供給できるエリアと使えるエリアの具体化により、点を面的なものにしていくことである。1つめのキーワードは市場性である。20〜30kmの範囲での市場性、燃焼機器の改良、原料販売店の流通におけるフォローが大切である。2つめのキーワードはコーディネートである。技術を持った人が機器導入や熱を効率的に使う方法を導き、企業間で議論できる場所を作ることが必要である。
岩手は地域の中でエネルギーを回していくべきである。今必要な作業はエリアを設定して考えていくことである。もちろんグローバルな視点も必要で、燃焼機器は他県にもコストメリットを付加価値にして販売すべきである。行政はそれをフォローするプロ集団になることが望まれる。
炎は人間の心を安らげる。雪中を歩くといろいろな所から炎が見える岩手にしてほしい。大胆に具体化に向けて動く岩手であってほしい。


(質問) 岩手は環境首都を掲げて活動してきたが、成果がいまひとつだったのではないか。
(回答) 全体をコーディネートする機関が無かった。ただ、岩手としてのパワーは出せたと思っている。
(質問) 今の県の姿勢をどう思うか。
(回答) 全体的なコーディネートとともに政策を再構築しなければならない。予算は縮小しているので県だけでなく民間も具体的な行動をしてほしい。
(質問) コーディネートは誰がやるのか。
(回答) 県がサポートしながらNPOや民間が集まって行うのが理想である。



2. 木質バイオマスエネルギーの限界と可能性
森林総合研究所 林業経営・政策領域主任研究員 久保山裕史氏

現在のエネルギー消費を木材でまかなうと2年も経たずに日本の山ははげ山になる。しかし経済性が確立されていないのでほとんどエネルギー利用されていない。森林成長量は石油エネルギーの8%に相当するが、森林系バイオマスのなかで利用できるのは用材生産に伴って発生する林地残材である。林地残材チップは石油には対抗可能であり、そのためには、全木・全幹集材により、用材用丸太と一緒に搬出する必要がある。短幹集材だと別途林地残材を搬出しなければならず、非合理的である。
フィンランドでは残材を土場に集積し、3〜6ヶ月天然乾燥させて含水率を落とす。大型機械により燃料チップを大量生産している。道端でのチップ化5割、そのまま輸送2割、中間処理1割、バンドリング2割である。燃料チップ価格は6000円/tで、森林所有者の手元には1300円/tほど残るので悪くはない。
これと同様に、岩手で50年生のスギを皆伐した場合を考えると、ha当り66BDTの残材が発生し13万円分に相当する。無視できない金額である。日本では既存のトラックで輸送して集中粉砕するのが現実的である。丸太を3t積載できるフォワーダでは残材は0.7tしか積めなかった。森林総研ではもっと積載できる車両を開発中である。
木質バイオマス利用拡大のための基本条件は、原料の低コスト安定供給、低コスト高効率変換技術、高い価格と大きな需要の3点である。
オーストリアではペレットは55ユーロ/MWh、薪は28ユーロ/MWhと結構高い。燃料チップは18ユーロ/MWhと安いので利用が拡大している。欧州全体では薪利用が46%と盛んで、熱利用は65%である。発電向けはそれほど多くない。
重油は将来50円/L以下にはなりにくいと考えられるのでこの価格と戦えれば普及する。つまり、ペレットは配達価格25円/kg以下の製造コストを実現する必要がある。発電は規模が大きくないと効率が上がらず、大きくすると日本では熱を売りさばけないので、発電のみとなるが、採算が厳しくなる。チップボイラーの採算性が最も高い。
以前の国産チップボイラーは生チップ不可で作業員のコストがかかり、熱効率が悪かったので普及しなかった。現在は高性能のものが増え、国内で30箇所程度設置されている。オーストリアでは木質熱供給機器は千台以上導入されている。
チップに高い価格を提示できる利用を拡大し、製材残材を活用しながら林業生産連携型の林地残材供給システムを作っていくことが必要である。


(質問) 薪ボイラーの値段はいくらか。
(回答) 3〜6万円/KWであるが輸入すると倍になる。

(質問) 西日本では森林バイオマスの収集に取り組んでいる素材生産業者はあるのか。
(回答) 西日本では熱利用が盛んではないので詳しくは分からないが、枝葉などの残材を作業道に敷いているのはよく見かける。



ホームへ戻る