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木質バイオマスフォーラム2007 公開セミナー


2007年1月26日(土) 16:20〜17:30
於:盛岡市民文化ホール
 公開セミナーは、毎年、木質バイオマス利用の先端的な部分を取り上げ、一般の方々にもわかりやすくまとめている。今回はお二人の方をお招きした。最初に、矢崎総業株式会社環境エネルギー機器本部 環境システム事業部 副事業部長 (兼 木質バイオマス事業推進部長)の清水一雄氏、続いて 独立行政法人森林総合研究所 バイオマス科学研究領域長 大原誠資氏から、それぞれ発表していただいた。
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「木質バイオマス地域循環モデル事業」について
矢崎総業株式会社環境エネルギー機器本部
環境システム事業部 副事業部長 (兼 木質バイオマス事業推進部長)  清水一雄氏



当社は、もともと自動車のワイヤーハーネス部品を製造するところからスタートし、環境問題の高まりから環境システム事業に取り組みはじめた。
まず、日本における新エネルギー導入量の見通しとして、バイオマス熱利用は2010年度追加対策ケースでは308万KL(原油換算)とされている。なかでも木質バイオマスは非常に注目されている。森林は多面的な機能をもっており、価値は年間39兆2千億円とされ、当社もエネルギーと環境、産業が一体となった取り組みとしてプロジェクトに着手した。
梼原町・矢崎総業共同事業コンセプトは@山づくりを通した林業の活性化、Aエネルギー循環としての製材端材や未利用間伐材を活用した木質ペレットの生産、B木質ペレットを燃料とした冷暖房機器の開発、Cエコツアーなど自然と文化とのふれあいを通じた場の提供―が主である。高知県梼原町は人口4860人、林野面積が総面積の90.6%の町である。平成7年には鎮守の森づくり条例を制定し、平成12年には梼原町森林組合としてFSC(森林管理協議会)認証を取得した。
矢崎総業と梼原町、梼原町森林組合は協定を結び、ペレット工場の検討を進めている。梼原町では杉と桧の成長量は123,000m3である。40%が切捨て間伐材、ペレット原料として必要な量は全体の4%5,000m3である。ペレット原料は製材所端材1,800トン、山土場残材720トン、林地残材1,080トンの計3,600トンで、ペレット製品にすると1,800トンになる。



ペレット製造工場建設には、さまざまな木質資源を利用できるエンジン式の破砕機も含め、2億1千万円かかる予定であるが、さらに安くなるように検討している。2007年4月に第3セクターを設立し、12月に工場完成予定である。資本金1千万円は、梼原町51%▽矢崎総業35%▽梼原町森林組合10%▽その他の事業者4%の出資である。従業員は1人でほかは同森林組合職員が兼務し、庶務業務は同森林組合に委託することで経費を節減する。創業2年後に単年度黒字化、創業3年後に1850トン製造し5年後には累積黒字になる計画だ。



開発した木質ペレット消費機器は、ペレットだきの冷暖房機器(吸収式冷温水機)で、ペレット投入熱量100%に対して冷房出力100%と高い効率性があり、二酸化炭素削減に寄与できる。は2008年商品化に向け105kwと35kwの2種類を開発中で、梼原町から60km圏内に販売する。現在太陽熱も利用できる家庭用の機器も検討している。なお、ペレットは30円/kgで販売する予定である。



さて、木質バイオマスの原材料が高く普及を阻害しており、森林からの搬出コストを下げるため、高知県では環境先進企業との「協働の森づくり事業」を行っている。企業、県と市町村がパートナーズ協定を結ぶ。企業から森林整備や交流に関する協賛金(ha当たり年3万円)を支出してもらい、ペレット材料を供給できる体制づくりをしている。
そのほか、梼原町と矢崎総業では4月29日(みどりの日)に約200名の森林ボランティアが下刈作業をしたり、矢崎総業の従業員の子どもたちがサマーキャンプをして森林に親しんでもらえるイベントも行っている。
今後は、1月に第3セクター設立、12月にペレット工場完成、来年1月にペレット生産・販売開始の予定。さらに新しい取り組みをしていきたい。



質疑:
Q:地域からペレットの原材料は供給できるのか。
A:第3セクターの出資者のうち、その他事業者4%の中に2社、民間の林業事業体が「自分たちの材を使ってほしい」と加わっている。材が出ること自体は心配していないが、コストと合わせられるかが課題だろう。

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「木質資源からのバイオエタノール化の現状」
独立行政法人森林総合研究所バイオマス科学研究領域長 大原誠資氏



 森林総研は、林野庁の研究機関から平成13年に独立行政法人化し、バイオマスに関しては従来から取り組んできたが平成18年度にバイオマス科学研究領域として力を入れている。わが国では平成18年3月31日にバイオマスを輸送用燃料として利用することを、バイオマス・ニッポン総合戦略として閣議決定した。2010年度までに原油換算50万KLのバイオマス由来輸送用燃料の導入を見込む。
輸送用バイオ燃料には、木質系セルロースを糖化、アルコール発酵、蒸留して製造するバイオエタノール、バイオエタノールとイソブテンから製造するETBE、植物油をメチルエステル化して製造するバイオディーゼル燃料がある。日本では、バイオエタノールは体積量3%までガソリンと混合できる。ETBEは7%まで混合でき、現段階ではこちらが推奨されている。バイオエディーゼル燃料は軽油に混合または代替として利用できる。
バイオエタノールの生産量はブラジル1,670万KL、米国1,500万KLに対し日本はわずか30KLと実証レベルである。各国とも優遇税制があるのに対して日本にはまだなく、これからという段階だ。
バイオエタノールに関して述べたい。木材はセルロースとヘミセルロースとリグニンからできている。エタノールを製造するにはセルロースとヘミセルロースを糖化・発酵させる。しかし31%(スギの場合)を占めるリグニンからは製造できないことが問題点であるが、逆に、このリグニンの付加価値を高める手段も考えられる。



今の日本では、発生量でみれば林地残材の未利用率が高く、少しでもこれを上げることが森林総研の計画にも掲げられている。エタノール製造コスト低減には、低コストなバイオマス収集・運搬システムの開発や路網の整備といった施策研究が大きな課題になっている。技術的にはリグニンを除くための最適な前処理、6炭糖や5炭糖を効率よく発酵する菌の探索、開発などが必要である。
バイオマスエネルギー高効率変換技術として濃硫酸法と酵素加水分解法がある。現在先行している濃硫酸法では75%の硫酸によりセルロースを加水分解させて糖を取り出す。大量の硫酸リグニンが出るが、1トンの建築解体材から208kgのエタノールが製造できた。
森林総研が力を入れる酵素加水分解法は、専用の酵素でセルロースを加水分解させる。生成したグルコースが過分解されない利点がある。しかし時間がかかるうえ、酵素の値段が木材1kg添加に200〜300円とかかることから、効率を上げるためにあらかじめリグニンを分解して酵素とセルロースの反応性を向上させる前処理が必要になる。



リグニンを除くための前処理には@蒸煮爆砕前処理酵素分解法、Aオゾン前処理酵素分解法、B超臨界・亜臨界水による加水分解法 がある。
蒸煮爆砕前処理酵素分解法は約20年前にできた手法で、試料を蒸煮爆砕し酵素糖化させる。広葉樹リグニンには効果大であるがスギやカラマツなどの針葉樹リグニンで効果が少なく当時は費用もかかったが、見直してもよい技術だ。
オゾン前処理酵素分解法は、針葉樹リグニンもうまく分解できる。ガス状のオゾンでリグニンを分解し、スギで糖化率80%を達成した。しかしオゾン発生のためのコストがかかり、1kgのブドウ糖を得るために電気代は約110円かかる。
超臨界・亜臨界水による加水分解法では、短時間で反応が進行し低環境負荷である。スギで70%の糖化率を達成した。しかし、温度を310〜320度まで上げるコストがかかる。
木質の場合、エネルギー利用は最後と考えたほうがよい。エタノール化できないリグニンのマテリアル利用もある。リグニンはバイオプラスチックやエタノール化の燃料にもなるので、さらに効率化を図る研究も進められている。



Q:エタノールは、スギから作ったものでも飲むことができるのか。また、数日前の新聞に発酵酵母の遺伝子組み換えで効率がよくなったとあったが、そういうことができるのか。
A:飲むことは可能。酵母の開発は進められている。グルコースはよいが、5炭糖のエタノール化や効率よくすること、あるいはオリゴ糖からエタノールができるように遺伝子組み換えができるようになれば、さらによい。木質の場合、エタノール化のコストのほとんどは原材料の収穫にあるので、そこの研究を進める必要がある。

Q:木質からエタノールをつくろうとするのは、日本だけなのか。
A:ヨーロッパ、ロシア、アメリカも取り組んでいる。現在は両方の方法でやっていると思うが、次第に酵素法になっていると思う。
以上



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