ホームへ戻る

木質バイオマスフォーラム2007 パネルディスカッション発言要旨


2007.01.26

金沢:岩手・木質バイオマス研究会は、スウェーデンのバイオマス協会をモデルに、地方から日本を変えようと発足し、最初から「地域」を意識してきた。まず、最初に企業、行政、地域で活躍されているお三方に取り組みをご紹介いただく。

【取り組みの紹介】

坂内氏:
もともと花巻工場は、埼玉県川越市にあった本社の自然エネルギー利用を目的とした研究開発部門として誘致していただいた。当時33人体制は本社工場となり、従業員155人となった。石油暖房機器を生産しているが、2002年に岩手県工業技術センターと木質ペレットストーブの共同開発を始め、翌年に業務用を発売。2004年には家庭用を発売し、グッドデザイン賞やバイオマス利活用優良表彰も受けた。
 環境を重視し、石油暖房機器でも室外排気を採用し熱効率の良い製品をつくるほか、地中熱利用ヒートポンプの開発もしている。

澁澤氏:
木質バイオマスと接したのは15年前、秋田県内に住んだとき。そこでは薪利用のために33箇所の共有林があり、毎年1箇所ずつ伐り、ひと回りすると元の林に戻るという森林の成長量に合わせる持続可能なモラルがあった。私が活動する岡山県真庭地区では、ヒノキの集積地で35の製材工場があり、1992年から地元の若手経営者で勉強会を開き「2010年の真庭人の一日」という本を出した。13年後の家族を想像し、誇りをもって地域で住むためには今何をするかを考えた。
その中でバイオマスは材としての利用し、最後に発電やエタノールなどのエネルギー利用も構想が生まれた。

多田氏:
森のエネルギーを主体に進めているわが町は、周囲を市に囲まれた人口約6800人の小さな町で、面積の90%が森林。うち40%が町有林だ。この森林資源の活用が町の生きる道だ。集中豪雨により切り捨て間伐材や手入れ不足の山林が災害を起す原因になることから、木質バイオマス利用に取り組んだ。約180人を雇用する木工団地では、プレカット工場のプレーナくずを産業廃棄物にせず、域内利用のペレット製造を始めた。
町保育園でペレットボイラーを設置し、環境省のモデル事業により、木屑抱きボイラーや発電施設などに取り組み、町内には世界各国のペレットストーブが計約70台あり、展示場のようになっている。
 
【地域とのつながり】
金沢:真庭地区では、バイオマスツアーなど、どうやって地域の経営者をつなぐことができたのか。
澁澤氏:システムを紙に書くのは簡単だが、実際、関係をつくるのは時間がかかる。真庭はうまくよそ者を使った。「親父の後を継げばなんとかなる」という甘えに対して厳しく接した結果、7割が地元、3割がよそ者になり、バランスが取れた。お互いの内情に踏み込まなかった経営者同士が、ダイオキシンの法規制により危機感が高まっていた。よそ者の私たちが入ることで、廃棄物を個々の企業内で完結するのではなく、地域内で循環させようと進み、生まれ育った真庭をひとつの会社として考えるようになった。

金沢:バイオマスに取り組む市町村は、概して豊かではない。町民の理解を得るにはどうしたのか。
多田氏:地域に誇れるのは山。私は20−21世紀に与えられた課題は、エネルギーと環境問題と考えるが、両方を解決できるのが木質バイオマスだ。
 住田町も豊かではない。しかし、町民の森林に対する思いは強いので、行政は大きなリスクを抱えながらもやるしかないと訴えた。幸い、町民は植林だけではなく、森林整備から製材から加工、住宅建築まで一連の町の流れとして捕らえていた。そこにエネルギー利用という視点を加え理解していただいた。ついでに言えば、昔は、木材を媒介にした都市との交流もあり、江戸では循環社会だったが、石油に取って代わった。町民にはそれを取り戻そう、といっている。

金沢:さて、その石油をつかった暖房機器メーカーのサンポットさんが、なぜ木質バイオマスに取り組んだのか。
坂内:私たちは誘致企業として埼玉県川越市から花巻市に移り、市民の方々の温かさを感じる。2001年、ドイツ・フランクフルトの世界的な空調機器展示会で、ペレットストーブがたくさん並ぶ半面、石油暖房機器は1台だったのを見た。それから岩手県で共同開発計画の話を受け、自然エネルギーが研究課題だったので手を挙げ、共同開発に着手した。
 その後、燃焼灰からの六価クロム溶出問題(注)が明らかになった。岩手県は速やかに情報公開し、研究機関の総力を挙げての原因追求後、安全宣言につながった。その対応にはとても感謝している。県内調達率もモーター類をのぞく70%程度なので、できるだけ100%に近づけ地域に貢献したい。

【やってみてわかったこと】
金沢:町の施策として取り組むには、普及が必要ですね。
多田氏:たとえば、最初に保育園にボイラーを設置したとき、近くにペレット製造工場はなく、すでに製造していた遠く葛巻林業から運ぶなど、木質バイオマスは町としてリスクを抱えなければいけなかった。議会や町の方々からは「なぜリスクをうちで抱えるのか」と言われた。ペレットを先に作っても売り先はないだろうし、最初に誰かがリスクを抱えなければいけないがその効果はすぐに見えるわけではない、と町民の方々に理解を得るように努力した。
まず保育園にペレットボイラーを設置し、こうして木工団地で雇用が生まれた。「効果はやがて少しずつ現れる」という運動が、すこしずつ理解されてきていると思う。
 
金沢:企業のパイオニアとして、やってみて初めてわかったことはあるか。
坂内氏:地域内を直接サービスして回り、設計にもフィードバックできた。同時に様々な反応があり、わかったことは、利用者の大半が環境面を重視していることだった。一方で「価格が高い」といわれる。年間300台弱では部品標準化がしにくく、コストダウンが図りにくい。なんとかメンテナンスを自社でやり、代理店制度を通じずに直販し価格を下げているが、なかなか難しい。
 また、全国各地でつくるペレットは実に千差万別だ。われわれが個別に燃焼試験し、プログラムを変更対応している。これもコストアップの要因になる。低価格で機器を提供する努力を重ねたいが、できるだけ規格化を急いでいただきたい。

金沢:普及と生産側が手をつながらねばならない。ことに地域で取り組むには課題が多いと思うが。
澁澤氏:バイオマスは嵩(かさ)がはる。地域外に出すと高くなるから、できるだけ地域で利用するほうが良いはずだ。そこで真庭ではバイオマスを使った出口をたくさん持つ"複雑系"を検討した。
 というのも、学生時代に稲ワラを農家から集めて完結した循環システムをつくり、会社を設立したが、うまくいかなかった。絵に描いた循環システムは、ひとつが詰まると完結しない。収益の高いひとつに集中するとうまくいかないものなので、真庭ではネコ砂や堆肥、エタノール、環境教育など出口をたくさんつくり、本業でも儲かり、地域でも儲かるように考えた。

【未来を語る】

金沢:増田知事には、普及から定着へと未来を語っていただいた。さきほどまでの課題についてはうつむきかげんだったが、今度は表をあげて未来を語っていただきたい。
坂内氏:これからの社会は、エネルギーの多様化が進み、自給可能で未利用なエネルギー活用につながるバイオマス利用の流れは変わらないと思う。われわれは今年度融雪施設など大型ボイラーを6台生産するが、今後家庭で使用可能なボイラーの開発に着手したい。年間を通じて利用する給湯ボイラーはペレット生産者のメリットは大きく、温暖化の抑制効果はさらに大きい。
 また、埼玉県や長野県など、ご当地ストーブブームが起きている。当社でも北海道型に着手しているが、昨今、燃焼機器の事故が重なっているので、性能や安全性などに問題あれば市場を縮小させかねない。安全な機器を供給することにより、健全な市場とさせていただきたい。その上で、将来的に国際的な展示場に出展していきたい。

澁澤氏:複雑系に乗ってくる人が多くなることが大切。たとえば、真庭ではストーブ利用よりも、ペレットだきボイラーに園芸農家が目を向き始めている。
従来のエコツアーは、風景のきれいなところに連れて行った。われわれは子どもに乳を搾ってもらい、堆肥をつくり野菜を収穫し、搾った牛乳を飲みご飯をたべるような、環境教育をしている。近くの湯原温泉では、てんぷら油を集め、バイオディーゼルをつくり車を走らせるようになった。もう、単なる工場視察ではなく、市民がどう変わっているかをツアーに組み入れることで活気づいた。みんなでどうやって生活の中から石油からバイオマスへと変われるか、というアイデンティティの確立に動く地域づくりが夢だ。興味があったら、ぜひきてみてください。

多田氏:林地残材をどう活用するのか、が大きな夢。だが、いつまでも行政がリスクを抱えるわけにはいかない。今の時代、動いていればよい時代ではなく、成果を生まないと評価されない。林地に放置された材をチップやペレットに変え、地域の消費者にどう還元されるのかを考えねばならない。ペレットやチップをどう利用するのか。それが林業振興に寄与することになる。
 住田町は、森林林業日本一を掲げ、持続する林業に取り組んでいる。ペレットや木材を、燃料や家を建てるだけではない。種山が原を中心に山を守るだけでなく、山に親しむ教育に取り組み、森林教育を進め、新しい地域づくりを広げたい。

【最後にひとこと】
金沢:ヴェクショー市では企業と行政、大学が地域でファンドをつくり、バイオマスに関する新しい試みをする企業に対し、助成や投資をしてさらに若い人たちが集まる仕組みをつくっていた。それが新しいエネルギーとなり、地域を活性化させていた。バイオマスに取り組むことにより、地域に活力を与えていた。最後にひとこといただきたい。

澁澤氏:民族学者、宮本常一氏の言葉に「ひとがいったんひとつのことに前向きになると、すべてのことが前向きになる(中略)そして、このまちの生きた姿を見るために、多くの人がおとずれるようになる」とある。地域に生きていく私たち自身が、生き方にどう誇りをもつかが"かぎ"となるだろう。

多田氏:この年末年始ほど、環境を取り上げたことはないと思う。昨年末は豪雪、今年は季節はずれの台風。われわれは、今なにをすべきか。現在生きるわれわれが、エネルギーと環境をもっと考える時期だろう。

坂内氏:本社を移しなぜ、といわれるが、実は、人がたくさん来て、いろいろなお話をできるようになり、ビジネスが生まれるようになった。首都圏にはない利点だった。これからもよろしくお願いしたい。

金沢:"地域"を語るには"人"が欠かせない。次世代を育てる人、外からやってきて人と人をくっつける"人"、そして自分たちの地域を真剣に考える"人"。もう一度、人という要素を考える必要があるのではないか。
 本日の資料最後にあるメッセージを本フォーラムのまとめとしたい。
以上
(注)六価クロム溶出問題 
 2006年3月、岩手県が2005年3月、木質ペレットストーブの燃焼灰から有害物質の六価クロムが産業廃棄物の管理基準値を上回って検出されたことを発表。岩手医科大学、岩手大学、岩手県立大学からアドバイザーを招き、県関係研究機関の総合的な調査で同年10月には「通常の使用状態では問題ない」とする"安全宣言"記者会見を開いた。耐熱金属と強アルカリの燃焼灰が反応したことが要因と見られ、利用者に灰の取り扱いに関する注意を促すとともにストーブメーカーなど関係者は対策を講じている。



ホームへ戻る