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いわての森林づくり県民税と今後の森林施策に関する意見書


2005年12月15日
岩手・木質バイオマス研究会
会長 金沢滋


12月定例県議会において、「いわて森林づくり県民税」の導入が可決されました。
 当研究会は、同県民税に関して、添付のような意見書を本日、増田知事あてに提出いたしました。
 県民から広く徴収する税金で私有財産を整備するという、従来にない施策だけに「県民にわかりやすく」そして、「将来に向けての森林づくり」の形が見えるようにする必要性を訴えました。
 また、税の使途はほとんどハード整備に限られるため、税金以外の別施策にて森林の循環利用を進めることを要望しております。
 これらのことを官民あげて検討し、推進することが、新たないわての森林づくりにつながると思う次第です。
 アクセスしていただいた皆様におかれましては、今後ともご理解とご指導のほどをお願いいたします。


平成17年12月15日

岩手県知事 増田 寛也 殿
(住所)盛岡市仙北1−14−20
株式会社金澤林業内
(氏名)岩手・木質バイオマス研究会
会長 金沢 滋

(要旨)
法定外目的税である「いわての森林づくり県民税」の使途では、公的関与による森林整備を軸に施策が講じられています。現状のように経済財として森林を取り扱うことだけでは整備が進まないと判断されたことは評価できるものの、一方で間伐を主体とする持続的な森林管理、ならびに、伐採された材を利用することによる二酸化炭素排出削減に貢献する循環利用の面から考えれば、なおいっそうの施策推進が必要です。公的関与による森林整備が単なる公共事業に陥らぬよう、岩手県の森林のあり方を示しながら、伐採木の循環利用を進めるような、県民にわかりやすい施策を盛り込むことを意見申し上げます。

(理由)
 岩手・木質バイオマス研究会は、岩手の豊富な森林資源を「みどりのエネルギー」として定着する活動をする目的で、2000年7月に発足。現在、全国に200人の会員がおり、岩手県の重点施策である二酸化炭素削減にも寄与する木質バイオマス利用と普及を推進する役目も果たしております。
 「いわての森林づくり県民税」については、森林資源を持続的にしかも循環利用するという立場から、今年8月、岩手県へのパブリックコメントとして意見書を提出したところです。
 さて、12月定例県議会で可決された同税について、研究会として下記のような視点を持っております。
1) 基本は法定外目的税であり、県民均等割りで法人からも徴収するものであるが、税の目的と使途、その効果が県民に解りにくく明確ではない。
2) 森林をおおまかに2種類、細かくは4種類に類別し、税の使途対象を公益林に限定するとしているが、公益林として認定するきちんとした指針がなければ公益林が点在し、後に混乱する事態を招く。
    県と民間が協力しあいながら、森林認証のような指針づくりに取り組むことも必要である。
3) 基となる森林データについて、課税の基となる登記簿あるいは、所有者が有する台帳や行政が持つ森林簿の間で大きく食い違う場合が多く、これまで支障になってきた。施策を実施するに当たりきちんとデータをすり合わせ、整合性をつける必要がある。
4) 誘導伐として「概ね50%を伐採し、針葉樹と広葉樹が交じり合った森林へ誘導する」「その後の森林整備は不要である」とあるが、次の点で疑問が残る。
@ どの森林でも同じようなやり方で、針葉樹と広葉樹が交じり合った豊かな森林が生育する可能性は、不透明である。県北部や土条件の悪いところなどかえって崩壊を進める可能性もある。
A 現在の県職員の体制では、施業に関する現場判断は難しいと思料する。
5) 森林の循環利用の視点が必要である。
使途の中で「間伐木は土留め柵等の措置をし、残りは林内集積する」とあるが、二酸化炭素排出削減も実施目的とするのなら、そのまま放置していては逆に二酸化炭素を排出する。残った木々の吸収量増大を期待するだけでは二酸化炭素削減効果は小さい。
そのためには、低質材をボード、住宅部材、木製玩具や家具などに利用し二酸化炭素を固定し、さらに木質バイオマスを主体としたエネルギーに利用してこそ、大きな効果を生む。
例えば、新税以外の施策において@低質材を搬出するシステム実証実験、A森林所有者に対する措置やトラック利用への助成、B公益林など面積がまとまっている場合には道路の敷設、C低質材を活用するビジネスへの助成、などを盛り込むことで効果を高めかつ持続的な森林の管理と循環につなげる必要がある。
6) 法人に関しては規模別に徴収するが、参加機会を促す施策がない。徴収する一方で、「企業の森」など積極的に森林造成や整備に乗り出す、あるいは木質バイオマス活用に関心のある企業に対して支援するなど、その輪を広げる考え方も有益である。

以上のことから、下記のような点をご提案申し上げます。

1) 県民が納得できるような効果を二酸化炭素削減、雇用、国土崩壊防止などの観点で数値を提示すること。現段階では、評価する基準もないため、期間をきめて評価できる施策を講ずること。

2) 新税が実施になる場合に備え、以下の3つのガイドラインを早急に設定するよう取り組み願いたい。なお、ガイドラインを設定する場合には、必ず所有者や有識者、民間事業者を含めた委員会や検討会を設置し意見を得ていただきたい。
@ 国の3つのゾーニングとは異なる、「公益林」と「資源循環林」のゾーニングについての判断基準と、とりまとめや協定書など森林所有者の対応に関する判断基準策定。
A 画一的に50%の強度間伐だけでは、極めて危険な森林づくりとなることから、具体的な施業に関する判断基準と、間伐木の集積・利用に関する事柄。また、従事する事業者についてもガイドラインが必要。
B 地域力を活かした森林整備の公募に関して、納税者である一般企業も含めた柔軟な対応が森林利用の大きな力となるので、ガイドラインが必要となる。

3) 2)にも関わるが、「いわてらしさ」をかたちづくるためには、画一的な施業に陥るのではなく、官民で地域の諸条件を考慮し、施業を考える体制を作る。これはすなわち森林づくりの方向性を示すという森林認証への取り組みにも重なるので、官民での取り組みが将来にわたって必要である。

4) 公益林であっても、資源循環林であっても 前項1)の観点から見れば、材を有効に利用することは二酸化炭素削減や、雇用など別の大きな効果を生む。下記の施策を検討願いたい。
@ ある程度面積が伴う公益林の場合、所有者がまとまれば道路敷設は可能である。各種森林作業にも活用できるため、作設しやすい道を整備できるよう協定に盛り込み、管理度合いが低い簡易道路敷設をすることが後の利用に生きる。
A 従来の柱材生産中心の林業では有効活用につながらなかった低質材について、いかに安定して供給するかが木質バイオマスを含めた森林利用の鍵をにぎるので、低コスト収集搬出システムの実証実験を体系的に講ずると共に、このデータから事業規模でのモデル事業構築を行なうこと。
B 公益林からの伐採木の多くは低質材なので、バイオマスエネルギー利用をはじめとした、低質材を利用するビジネスを育成する。

5) 企業を中心とした木質バイオマス施設整備や、森林整備を中心にした「企業の森」など、納税企業の取り組みを促進し、森林の民間利用を支援する。

6) これらの施策を行うにあたり、国への制度の変更要望や必要であれば経済特区の申請も視野に検討願いたい。
 
 独立行政法人森林総合研究所の調査によれば、都道府県による森林にまつわる法定外目的税は、39都道府県で検討し8県が導入し、4県が導入予定です。(「木材情報」2005年7月号、立花敏氏)使途では、鳥取、山口、高知、熊本各県で強度間伐による針広混交化を盛り込んでおりますし、NPOやボランティア団体に提案を促す施策も多くなっております。しかし一方で、施策が断片的で、特に木材利用面の施策が少ないことを指摘されております。「環境首都いわて」をうたい、木質バイオマス利用の先進地である岩手県においては、森林から最終利用までの持続循環施策が最も重要であると認識しています。
岩手県の森林は、短期間に大面積造林をしてきただけに、良質材のみを選別し生産してきた先進地と異なり、利用面においては非常に大きなポテンシャルを有しております。このことをご理解いただきたいと思います。

公的関与を強めた新税について、これをいかに「いわて型 循環社会」にどう結びつけるかが重要な課題であります。従来型行政と従来型の林業事業体だけでは、すでに手に負えなくなっているのも事実です。環境面だけではなく、雇用や経済効果面からも多くの県民に理解していただくためにも、以上の事柄についてご認識いただき、新たな段階へ踏み出していただきたく、意見書として提出いたします。
以上



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