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「スイス-日本エネルギー・エコロジー交流」講演会 要旨


2003年10月31日
住田町気仙地方森林組合2F会議室
2003年11月1日
盛岡市会場・岩手大学付属図書館2F会議室(教育学部側)
■主催:スイス-日本エネルギー・エコロジー交流
■共催:岩手・木質バイオマス研究会、ジェトロ盛岡貿易情報センター、INS住まい環境研究会
■後援:住田町、住田町教育委員会、JIA日本建築家協会・岩手地域会

スイス在住の執筆家、滝川薫さんの講演会がありました。
岩手・木質バイオマス研究会の後援でしたので、要旨を公開します。省エネルギーと木質バイオマス、太陽エネルギーを効率的に使う住宅あるいは、ライフスタイルの薦めです。建築設計士の方々も多く出席しており、ご参考になった方も多かったと思います。滝川さんからは「日本流のスタイルが早くできることを望みます。ことに、岩手はその先進地になりうるポテンシャルを持っていると思います」と激励していただきました。

講演風景

1. スイスの特徴
 九州とほぼ同じ面積に、人口700万人が生活。
@ 自然との距離が近い
・市場の風景
A メリハリのある生活 と ゆとりある時間
・ アフター5の時間のすごし方
・ 5週間の有給休暇は有効に使う
・ 生活のない仕事はない。
・ プライベートの時間が長いと、生活居住空間の質が上がる。⇒設計が変わる
B スイスのエネルギー政策
・ 気候温暖化の影響 250年の中でももっとも暑い夏。土砂崩れなどの災害が起こる。
・ 氷河 1919年との比較でも縮小しているのがわかる。
・ 日本9.1トン/人に対し5.8トン マイナス10%という目標
C 建物の二酸化炭素 マイナス15%を目指す住宅政策
エネルギーシュバイツ型 自動燃焼のチップ暖房 シャワーも温水タンクのお湯
⇒消費者が生活レベルをそのままにして、消費レベルを下げていく方策。
 より主体的な生き生きする生活であり、やせ我慢の苦労型ではない。

2. 省エネルギーとして自然のエネルギーを活かす
@ 住宅についての省エネについて
自然エネルギーは省エネがあってこそ。屋根にソーラーパネルがあっても浪費してはいけない。ペレットストーブでも窓から逃げる
1/6が生産に使われ、残りは温水などランニングエネルギーになる。経済的にも再生可能なエネルギーはコスト的に使用は難しい。一部を削減していく必要あり。
 省エネルギーは自然エネルギー前に第一に考えないといけない。
A 暖房(熱)に関して
スイスの住宅の消費 1960年代からセントラルエネルギーが中心になると同時に、エネルギー需要量に制限を設けた。一定エネルギーの省エネが義務化されている。
90年以前平均 20リットル/平方メートル
90年以降   10リットル/同
県は⇒4リットル/同 を目指す
従来では暖房期間が10月から4月 12月から2月へ短縮 日射を利用したり、薪ストーブでの補完をする。
ミネルギーの例:
カルバニーの住宅 薪エネルギー 10立方メートルの使用
集合住宅 天井や壁はコンクリートだが、ほかは木を使用。
                   低温の床暖房
小学校 レンガ型 従来の住宅の2軒分 150人の生徒たちが学ぶ
快適、健康、無有害物質、低エネルギー、経済性の5点を満たさねばならない。新築の1割程度建てられている。

1.5リットルの建物は ミネルギープラス住宅といわれる。断熱材の厚さを加える。再びセントラル暖房になる。ほか薪ストーブで補完するようになっている。
例:わらの180センチの厚さ。2メートルの雪に耐える。調整湿度機能があり、温かい。たまに日射のない日があると、薪ストーブ。
 木造4階建てでは、徹底した省エネに+してペレットストーブなど。
 がスター社 では、エネルギー自給型のオフィスが目標だった。パッシブソーラーのため大きな窓面で受けて蓄熱体の壁にためる。30センチの壁に37センチにハザードを設ける。石灰カガンのブロックに2.7日分の熱がためられる。ほとんど20度以下にならない。夏は夜間冷却にもなる。加熱を防ぐために庇もある。熱回収率90%で損失は少ない。日射量は少なく、熱が下がる。20度以下になるとペレットストーブが自動点火することになる。しかし稼動は1シーズンで13日間になる。
地域の建材は無垢であること、が哲学。調和を取ることが大切。地域の人に哲学を言葉ではわからないので、地域に一部開放している。
 
B 電力の省エネルギー
電気の省エネルギーは熱に比べ、遅れていた。電気量を減らすと家庭の財布を軽くする。電気は電気でないと動かないものにしようする。
※ エネルギーラベルの表示を義務づけ。食器洗い機など家電製品にラベルをつける。これによって消費者は購入価格に消費量も考慮できるようになった。性能についての表示もあり、電気量が二倍、三倍の違いも出てくる。消費者の認識度も上がる。
例えば:照明器具 白熱灯は安いが、蛍光灯、ハロゲンのほうが高いけどトータルは安いことがわかる。

省エネ型の住宅を選ぶと家電もついてくる。そのためには、建築家が知らないといけない。
⇒電源を選ぶ。36%原子力である。1to1エナジーの広告のように、電源を選ぶことができる。自分で電源を選ばねば、あなたは原子力か再生可能でないエネルギーを選んでいる、との政府広告。エコ電力を選ぶ契約者は9万人いる。
 滝川さんも「ネイチャーメイドスター」という15キロ離れた発電所の電気を選んでいる。再生可能だといっても、すべては同じでない。
    節電型のくらしは、機器が効率よいので、生活者として気持ちがよく意識が貫けると思う。


3. まちぐるみ のエネルギーへの取り組み
 エネルギー都市マーク 建築設計、運輸、市民などの分野にわかれている。自治体の建物の省エネなどが原則。アドバイスセンターの設置などが項目になっている。人口14万人のベルンでも、小さな村でも取得できる。
 サッテイル村では、アドバイスで実績を上げている。
 オーバーリッケンスタールでは、マイナス30%の省エネ対策を実施。90年代には熱利用の化石燃料使用を10%に。⇒ゴミの地域暖房、木チップの地域暖房の活用
 再生可能エネルギーを観光に。
 サンクトモリッツでは、地域の省エネルギーと自然エネルギーをもとに、ツアーを組んでいる。3050メートルのソーラーパネルから、風力、をエコツーリズムに結び付けている。地域のエネルギー会社、行政が手を結んでいる。
 全国に50あり、100が目指している。互いに切磋琢磨して目指している。厳しい状況で取り組んでいるのは誇りになっている。ある自治体では旗に飾っている。

4. 森林資源の活用
@ スイス人にとっての森林
30%を森林が占める。岩手に比べすくないが、徒歩10分で身近な森。多くのスイス人は日常生活には欠かせない場所になっている。73%が公有林であり、通行の自由である。散策路が整備されている。スイス人にとって公園のような場所である。
 夏に週複数回58%
  冬に森林にいく  87%
    冬複数回いく   38%
水資源の98%は地下水である。飲料水の確保でもあり、環境教育がある。森の幼稚園という形態は有名である。また防災上もがけ崩れから守ってきた。森は多様な機能を持つ。
自治体の林業部門がになうが、経済的には赤字が多い。それを維持しているのは、木質エネルギーと建設である。
A 木質エネルギー
 木の暖炉 居間だけは暖かい、という歴史的なセントラルヒーティング。暖炉や薪ストーブが集合住宅で使われてきた。火を囲む生活が豊かであるとの認識。⇒再び重要な意味を示す。
 薪調理台 
 セントラルヒーティング 薪やチップ、ペレットが用いられる。交換期に取り替えている。
ではどのように注文?⇒
 スイスではすべての自治体が森林を所有しており、簡単に注文できる。自治体や農協に電話することにより、お好みで注文できる。

たとえば、エコ住宅団地(4棟)では、木チップとソーラーの組み合わせがある。夏は生活温水をソーラーで。冬は木チップの燃焼で温水をつくる。木チップは出力100%での燃焼が好ましいから。
 別の団地では、木エネルギーの燃焼場所は地下に近い部分にあり、薪なので、手動で住民が2週間ごと充填をしている。エコロジカルな住宅の住民なので喜んでする。平均的な集合住宅の1/3程度に抑えられている。
 民家でも用いられている。友人の医師は古い民家を再生して使用している。蓄熱暖房を導入し、1回に5キロの薪を燃やし、ほぼ一日の熱をつくる。キッチンは薪調理台を使用。電磁調理器もあるが。
 牛小屋はあった場所にはペレット燃焼装置を設置。自動点火ができる。温水と暖房をまかなう。
住宅以外でも、動物園の植物園毎年5300立方メートルを使用している。住民投票で木チップにした例もある。
 市民に対するイベントも大切。10月にベルン近郊の木エネルギーに関する普及イベントがあったばかり。メッセや建築雑誌では情報が流れている。あるいはアドバイザーもいる。一次エネルギーの5%で250万立方だが、いますぐにでも倍増できるといわれる。
 エネルギーの種別で、地元にどれだけ貢献しているかを計算してみた。
        木    石油   ガス
 地域     52    16    14
 スイス    48     25   12
  国外     0    59    84
計       100    100    100
5. 木造建築ルネッサンス
今、建築設計にとって一番熱い分野である。
施主の環境意識、建材の充実、設計士の現場 建設会社が木造の快適なノウハウを覚えたことが理由。
 特徴は
@ 木造システム工法というプレハブ工法⇒製作所で壁単位で製作し、現場で組み立てる。工期が1日か2日ですむ。天候にかかわらず作業する。しかも精密である。
A 木造3階建て以上の普及⇒集合住宅、工場、ビルの建設が進出している。耐火性や強度の再評価がなされた。5階だてまで可能である。木が支柱能力を失わないという評価がされている。ここでは、伝統の知恵も活かされている。床下や大庇など。
B ミネルギーへの進出⇒薄い壁厚で立てられる新しい建材の登場。断熱材の厚さが厚い。内装や外装には木質が用いられる
※ サニーウッド チューリッヒから郊外10分のところにある木造の集合住宅。セントラルヒーティングではなく、木造システム工法である。1週間で立ち上がった。6戸の 230平方メートルの住宅が入る。1戸立てと同じような品質。97%は国産材であり、3%はカナダ産をデザイン上選んだ。システムとして
   アクティブソーラー 真空管状の温水暖房管 
    パッシブソーラー  加熱しないように自動的に日よけがおりる
※ トマー社
無垢の板を重ね、木栓で貫通させる。厚さ17から40センチになる。木自体も断熱性がある。わずかな空気層があり、熱の伝導を妨げている。木の壁は重く、方向も異なるので、曲がりなどは発生しない。4階だてまでの建設が可能。表面は炭化しているが、裏に回っていない。
 木の伐採方法が独特。木を真冬の新月と満月の間に伐る。⇒狂わず、虫がつかない。年輪の密度が高い。科学物質をほとんど使用しない。設計士はITで送信し、工場で削る。無垢で価格も通常で健康的な家ができる。
 
スイスの著名な建築家も木を使用することに興味をもって、いくつかの建物を手がけている。ハノーバー万博のスイス館であった。
 スイスで生活し取材していると、現代性の冷たさではなくバランスに感動している。有意義な建材である。今の技術と伝統の融合のルネサンスが始まっていると思う。

6. 建物を長く使いつなぐことから生まれる質の高い住まい 改修について
住環境への要求が高く、改修して快適性や空間の変更をしている。スイスをはじめとする欧州では新築と同様な価値を有する。
 スイス人の70%は賃貸生活者である。家主は常に賃貸住宅を高く維持していないといけない。
@ 自身の住まい
農家の離れ。3階部分を賃貸住宅として改修した。農作物を乾かす部屋だった。1889年に建てられ、10年前に大規模改修した。薪暖房とラジエター暖房。台所も最新の薪用。
 古いが中の住宅は快適であることが一般的である。冷蔵庫、オーブン、洗濯機は家主が選んで設置している。
 ベランダも腐りやすいが手入れをして使いやすい。
 今の生活スタイルを維持している。それに+αが省エネ対策である。9割以上は新築ではないので改修が一番のポイントである。改修に関しても法規制がある。
 1970年代に建てられたものはエネルギー消費量が高い。それを40%程度効率を下げないといけない。断熱強化、機器の更新、窓の交換、機械換気設備の設置。マイナス30〜40%が可能となる。州によっては、補助金を出しているところもある。
 例:ベルン市の古い民家の改築で幼稚園⇒断熱と窓
   ローザンヌの築100年の都市建築をホテルと住宅に
   19世紀の邸宅を省エネ型集合住宅
A 1970年代の団地
 住宅ストックの20%。快適性、照明の向上など。
 ベランダをガラス張りにしてしまった。ベランダが熱損失の大きな要因だった。ヒートブリッジの解消にもなった。
 屋根断熱して、窓を交換し、住面積が増えた。家主にとっての魅力が高まる。
 オフィス・ケンプフェンでは、廃屋同然だったが、生まれ変わった。対策としては断熱材が24センチから37センチへ。4階部分に木造を乗せる。省エネの上にアクティブソーラーを備えた。庇の上に光発電、屋外にソーラー熱。燃焼には木質を利用している。
 建築家の創造力がいかに重要かがわかる。
 投資により建物がより向上し、家賃も向上する。さまざまなプラス効果もあった。
7. おわりに
建物の環境への負荷を下げる技術はそろっている。現実には、京都議定書の問題は残っている。市民の意識はそこまでいっていない。紹介した事例は、建築家と市民の方々の夢、自意識の高さが寄与している。岩手の環境首都の取り組みを支えるのが、ひとりひとりの取り組みだ。持続可能な哲学の実践をお願いしたい。日本中に広がっていることを希望している。
以上


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