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森林からの発信〜森が生み出すエネルギー 講演録

日時:2002年7月27日(土) 13:30〜
場所:盛岡市アイスアリーナ2階会議室
主催:岩手木質バイオマス研究会
記録者:事務局 藤井貴史

講演「森林エネルギーへの期待」
岐阜県立森林文化アカデミー学長 熊崎 實 氏


◆はじめに
 地球環境と森林をテーマとし、森林によって二酸化炭素の増加速度を少しでも遅くできないかと研究してきた。
樹木は育っている間は二酸化炭素を吸収するが、成熟すると吸収しなくなる。日本は国土の7割が森林で、
これ以上森林を増やして二酸化炭素を固定するのは難しい。
成熟した森林からいかにエネルギーを引き出し化石燃料を使わないか、森林に二酸化炭素をためるより
合理的に森林を利用しエネルギーに変えていくにはどうしたらいいかということが今重要な課題となっている。
 1990年代前半からバイオマスのエネルギー変換への期待が高まってきた。
技術の進歩により、石炭をガス化して発電することができるようになった。しかし石炭より木材のほうが
ガス化しやすく、木材の持っているエネルギーの40%が電気に変えられる。
さらに熱も取れるので80%〜90%が利用できるがまだ完全に実用化されていない。

◆森を見捨てた日本人
1950年から2000年の間にヨーロッパ諸国は木材生産を増やしているが、日本だけが減少している。
日本の木材自給率は18%にまで低下。森林率10%のイギリスでさえ木材自給率は25%である。
年間森林成長量のうち伐採して木材利用しているのは、日本ではたったの30%であるのに比べ、ヨーロッパは70〜80%である。
管理の放棄や木を切った後に植えないという人が増えており、日本人のモラルが失われている。
木材価格が下がっていることは日本だけではないが、ヨーロッパではそのようなことは見られない。大きな問題である。

◆利用されない日本のバイオマス
日本はバイオマス燃料の消費量が少ない。森林面積が2400万haあるが、総エネルギーでの消費量は0%。
オーストリアでは森林面積390万haで消費量9%、スウェーデンでは2400万haで12%である。
オーストリアとスウェーデンは化石燃料が自国にないので、自国でまかなえる燃料を木材として取り組んでいる。
日本も同じ状態であるのにもかかわらず、外国から化石燃料を輸入して木材は山に捨てている。

◆無駄の多い日本の木材利用
アメリカでは木材のうち製材やパルプチップに不向きなものが全て燃料になる。結果的に森林から出された
木材のうち半分近くが燃料になる。日本ではパルプを輸入し、工場から出た端材は燃料として使われないので
廃棄物になっている。エネルギー利用がなされていないことが廃棄物問題を生み出している。

◆温暖化防止と木質バイオマスへの期待
 最近の木材を燃料とするストーブは熱効率が80%とよくなっている。完全燃焼させることにより、
木材の持つエネルギーを完全に熱に変えられる。近年、石油や石炭に替わって木材がエネルギー利用
されるようになった理由は熱を変換する技術が進歩したことと、燃焼した際に温室効果ガスや酸性降下物の
排出量が少なく環境にやさしいということによる。
 EU15カ国における2010年の二酸化炭素削減可能対策の7割をバイオマスが占める。バイオマスは熱供給や
コジェネができ、風力や太陽光発電よりコストも安くできる。二酸化炭素削減の本命はバイオマスだという認識が
ヨーロッパではあるが、日本にはない。

◆バイオマス発電
木材チップによる発電の場合、5,000KWのものは発電だけなら効率がいい。1,000KWのものは発電コストが倍かかるが、
熱も利用するのであれば小さなコジェネプラントでもかなり木材の持っているエネルギーを有効に使える。
発電だけであると燃料の4割しか電気にならず、6割が無駄になるが、コジェネだと8割が電気と熱になるために
無駄が少なくてすむ。これからは電気だけの発電所ではなく、電気と熱を両方取るプラントが有効である。

◆「森の発電所」構想
美濃市に検討している発電プラントは5,000KWである。小規模分散型のバイオマス発電では可能な限り熱電併給で
いくべきだが、地元に安定した熱の需要がないため、発電中心にした。
各施設に熱供給をしようとすると、設備ではなく配管にコストがかかる。熱利用を考えるのならば都市計画の
段階からパイプラインを引くことなどをしなければならない。

◆バイオマス発電の採算性
構想しているプラントでは木質バイオマスの集荷が問題である。破砕チップは1,000円/t以下で安く集荷できる。
廃棄物処理法で廃棄物の焼・棄却が禁止され、流木や剪定木などを処理した破砕チップが大量に生み出されたことによる。
山から出るものについては、林道端からグラップル等で引き出して運送し、チップにする。
費用はプラント側で持つことにすると6,000円/tかかる。これで発電できるかどうか採算ベースに乗せたい。
内部収益率10%にするために、売電価格を12円/KWhとすると燃料価格は2,000円/tにしなければならない。
売電価格20円/KWhだと燃料価格は6,000円/tでもいい。
日本では林道端から運送してチップにするまで6,000円/tかかるが、フィンランドでは3,000円/tでできる。
スウェーデンでは20年かけて山から出る燃料コストを下げる努力をし、石油や石炭に税金をかけ、
バイオマス燃料を安くした。政策支援が功をそうしている。
大事なのはコストが高いからやらないのではなく、どうやって下げるかを考えることである。

◆森林・林業の活性化とバイオエネルギーの役割
これからは地域から出てくる木材を全て受け入れる木材加工基地を構築し、製材から乾燥、プレカット、
集成材加工等を集約して行えるようにする。さらに木質バイオマスコジェネプラントを軸に林地残材、製材屑を集め、
電気や熱を各工場に供給し、余ったエネルギーを売電する。これがもっとも自然な形で、森林・林業の活性化につながるであろう。